APJ FORUM SITEAPJ フォーラムサイト

2016.07.19

日本人はイノベーションをどう思っているのだろうか?

Innovationとは、Oxford advanced learner’s dictionary には、the introduction of new things, ideas or ways of doing somethings ―何か新しいものや、新しい考えや、あたらしい方法を導入すること―となっている。これはシュムペンターの新結合やクリステンセンの「一見、関係なさそうな事柄を結びつける思考」と一致している。しかしながら日本では1958年の経済白書でイノベーションを「技術革新」と訳したために、現在の日本の英和辞書までイノベーションは技術革新になっている。

Revolutionと勘違いして、日本の多くの科学技術者が、何か技術的な先端研究をしなければいけないと勘違いしたのではないだろうか?大学や公的研究所の研究者は、それぞれの分野で先端科学技術の革新的研究を目指すべきであるが、最近の大企業の研究者は、アカデミアの研究者と張り合って最先端の科学技術製品を目指しているのではないか?

大企業の研究者は多額の研究費を使って、ユーザーが求めるものではなく、高額の高性能の製品を目指している(新しい会社法では「企業は営利を目的とする」という文言が消えてしまったが、法学者は、企業は営利を目的とすると考えている)。クリステンセンがいっているように日本の企業はカイゼンの習慣を忘れてしまっている。

ソニーのウォークマン、日清のカップヌードルやワンカップは新しい消費者の価値観に合わせた開発を行い、科学技術的な問題を解決しているが、先端科学技術を使っていない。これらはイノベーションといわないのだろうか?

 

イノベーションを語る前に

 

近年、IoT(internet of things)については、日本では2年前から急に話題になり、今年に入ってからは、猫も杓子もIoTで、テレビのコマーシャルにも出てきている。特にヘルスケア分野では、今後、健康寿命の延長や、在宅医療、遠隔医療、在宅介護等の問題解決にIoTとの融合で多くのイノベーションが期待されている。

しかしながらヘルスケア分野では、分子・遺伝子レベル、細胞小器官レベル、細胞レベル、組織レベル、器官レベル、個体レベル、場合によっては集団レベルの研究がおこなわれているが、分子・遺伝子レベルの研究結果を個体レベルに適用できるかということはそう簡単には言えない。

また生物には通常、個体差(バラツキ)が存在し、例えば、厚生労働省で製造承認されている医薬品の有効性は疾患の種類や医薬品の種類によっても異なるが、癌で20~30%程度、C型肝炎、骨粗鬆症、関節リウマチ、糖尿病等の医薬品で50%弱~60%程度である。有効性が低くてもよいというわけではなくいろいろな要因を含む個体差がこの程度ある。一方、俊敏性(agility)や精度が求められるIoTの分野と上記のように個体差を考慮しなければならない分野との融合はそう簡単ではなく、単なる思い付きではなく、それぞれの分野のサイエンスの基礎的相互理解(勉強)が必須である。

波瀾千丈 2016年9月16日

pagetop